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2011年5月21日土曜日

民間賃貸住宅の被災者用住宅への転用に関する考察

東日本大震災後、一時的に体育館や公共施設へ避難されていた方達の借り上げ賃貸住宅や、仮設住宅への移動が始まった。一部識者からは、「新に仮設住宅を建設するのではなく、既存の空き住宅を活用すべき」との声があった。しかし、言うは易しであり、既存住宅の被災者用住宅への活用には多くの課題がある。

1-ⅰ,情報の提供
今回の地震を受け、福島県との防災協定を締結していた同宅地建物取引業協会は、その数日後には、被災者用住宅の提供を会員に募った。初めは書式を問わない物件提供の呼びかけであったが、しばらく経つと、ハトマークサイトへの情報掲載が義務化された。そしてさらに時間を経ると、統一書式でのFAXによる情報提供と形式が簡略化される。なぜ、このように二転三転したのだろう。

震災直後は、混乱もあり先ずは協会としての意思表示をするという意味で十分に評価される取り組みがなされたものと思う。次に、提供された物件の概要を効率的に把握するという意味で、ハトマークサイトへの掲載義務化も評価できる。が、ここに問題を孕んでいるのではと著者は考える。弊社などは、不動産情報サイトアットホームに加盟している為、アットホームサイトからハトマークサイトやレインズ、ヤフー不動産などに情報を掲載する事ができるし、インターネットを使った集客活動が常態化しているので、前出の掲載義務も特に苦ではない。

しかし、高齢の経営者と同年代の社員などで構成される不動産会社では、IT化は愚か、パソコンすら無いということも考えられる。結果、自社でのハトマークサイトへの掲載が不可能であり、協会側もそれを代行するだけの余力も無く、一覧表提出による情報提供に落ち着いたのではないか。このことは、批判されるべきことではないが、普段の準備不足を指摘せざるを得ない。

2-ⅰ,契約
今回の契約に関するスキームは、定期建物賃貸借であり、貸主と福島県の直接契約及び、県からの被災者への転貸である。このため、契約書が3通(貸主・福島県・被災側の自治体)、重要事項説明書2通(福島県・被災側の自治体)請求書2通(貸主・仲介業者)定期賃貸借建物説明書2通といった書類が物件それぞれに提出を求められ、複雑を極めた。通常の業務であれば時間的にも余裕があり、法令で定める書類を作成提示することは当たり前である。が、事態は非常なのである。行政側の杓子定規な対応が歯がゆい。

3-ⅰ,マッチング
1で挙げた通り、詳細な情報の少ない中、借り手(被災者)側と物件とのマッチングにはだいぶ手間取っているようだ。中には、2DKの間取りに7人で入居などという話も聞くし、1Kに3人などはザラだそうだ。もともと、郡山市の空き物件は1Kや1DK、2DKなどに偏重しており、状況の悪化に拍車をかける。私も実際に4人で2DKへ入居という方にもお会いした。また、被災側の行政にしろ、そこに応援に来ている行政官にしろ、避難地域(例えば郡山市)の地理に不案内であるためのミスマッチも起こっている。

大きく挙げるだけでも、このような課題がある。まして、細かく挙げればキリがない。今回、不幸中の幸いだと私が感じるのが、被災された方が陽気で、サバサバした“浜っこ”気質の方たちだということだ。物件の整備が遅れていても、きちんと状況をご説明すると分かってくださるので大変ありがたい。では、これらの課題を抜本的に是正するためには、どのような取り組みを要するのであろうか。

1-ⅱ,支部内賃貸物件のデータベース化
非常時において迅速に必要な対応がとれるのであればそれはそれで良いと思う。しかし、非常時故、思ったとおりに行かないのが世の常である。そこで、支部内の賃貸物件をデータベース化し、一定間隔で内容を更新するというシステムを構築してはどうだろう。細かな手続きなどは後進に譲るとして、ここではその可能性にのみ言及しておく。

2-ⅱ,契約書面の簡略化
この様な場合、借主は国や県などになるものと考えられる。つまり、貸主は複数あっても借主は1ないし2名なのだ。であれば、貸主ごとに対象物件の内容をリスト化し、契約書の頭書部分に替える。約款はいずれ同じなので、1部を添付する。部屋ごとの契約だと、類似の書類を何冊も作成せねばならず、ケアレスミスを誘発する。また、1-ⅰで述べたとおり、データベースが存在すれば、それを重要事項説明書に替えることも可能であると考える。

3-ⅱ,プロボランティアの活用
3-ⅰで述べた通り、斡旋を担当する行政は、普段からこの様な業務に従事しているわけではなく、また借り上げ賃貸住宅が存するエリアについても地理的に不案内である。それゆえのミスマッチや徒労も多いようである。この点を解消する為には、慣れた人材を投入するのが一番である。宅建協会等を通じて普段から賃貸住宅の斡旋等を行っている人材を募って業務に当たらせる。その為の登録制度(応急危険度判定士制度などを参照)を設けるのも一案だと考える。

以上、民間賃貸住宅の被災者用住宅への転用について、実施に関する部分に限って問題点や、その解決のための一案を提示した。しかし、地域コミュニティーや情報の伝達・業者のモラルなどアプローチを変えるとまだまだ問題点は多く存在する。しかし、このような取り組みが成されたことは歴史的評価に値するものである。大規模災害など、無いにこしたことはないが、地震や火山、台風など自然の猛威と日本列島とは切っても切れない関係なのである。今後、今回の取り組みを糧に一段の研究を進め、もしもの時に備えたい。

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